◇事務局・石川由紀が折々を綴っています。◇
「津波てんでんこ」という言葉を知ったのは東日本大震災の後でした。津波の際は「家族が『てんでんばらばら』になっても構わず全力で逃げろ」との教えだそうです。
これに似た言葉を実家では幼少時から教えられていました。私の躾係だった明治生まれの祖母は「火事とか危ない時は他の人のことは放っといて、自分だけ逃げなさい」と突発事件のあるごとに言っていました。それは今でも耳に染みついています。
しかし、長じる程に違和感を覚えたものでした。学校教育などで、"みんなで"とか、"お互い助け合って"などという教育を受けるに従い、"自分だけが逃げてもいいのだろうか?"という意識が出てきて、"みんな一緒での行動でなければいけない"のが常識で、祖母の教えは利己的で、世間では通じないコトではないのだろうかという疑問が生じてきていました。
近年突発的に生じる重大な天災、災害、人災、事件・事故を映像・解説と共に見聞きするに付け、祖母の教えを真摯に受け止めるに至りました。自分には寸時を争う事象に対して他者を支える知恵も技も体力もないことを今では十分理解していますから…。津波や土砂災害が起るような地域で生きてこなかった祖母でしたが一番危惧していたのは、火災と強盗、喧嘩沙汰くらいのコトだと思います。父母と弟は離家で、私は母屋で祖父母と寝起きを共にしていましたので、年寄りに構わず"あんたは自分だけで逃げなさい"と言うことのようでした。自宅で出会う事象にかかわらず、外での出来事でも、と受け取ってはいました。
今、一人暮らしをするようになって昨今の自然災害や人的災害のニュースに出会う度に思うのは、時代が変わって社会のシステム化が進んでも緊急時の基本は「てんでんこ」なのではと思うようになりました。地域が緊急事態に遭遇したとき、地域の人が後期高齢者だからと思って声掛けをしてくださるのは有難くお受けしますが、足手まといになって共に被災者となられるのは耐え難い境遇になっています。
「自分の命は自分で守ってください」と言われるようになりました。今年の元旦の「令和6年能登半島地震」でNHKから発せられた緊急津波警報でのアナウンサーの避難呼びかけが話題となりました。「情報を待って逃げ遅れないで下さい!」「今すぐ避難! 今すぐ避難! 東日本大震災を思い出してください!」と何度も警鐘を。
助けを求める余裕が無い災難リスクとして自分の周りにはどんな事象があるのかと今一度見渡し、覚悟と対策を考えた今年の"3.11"でした。
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